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准教授
Masayuki Mae
人の暮らしと地球環境の両立のために
現場ありきの研究を地道に続けています
「日本のどこでもだれもが、健康・快適で電気代も安心な暮らしができる社会の実現」を研究テーマに掲げています。
私自身、学生時代から住宅という人が暮らす一番小さな単位を研究テーマの軸にしてきて本当に良かったと思っています。
住まいは人類の歴史とともにある。その最小単位から地球環境に寄与できる研究をできていることに感謝しつつ、本当にあの時の選択は間違ってなかったと思うのです。
オフィスビルのような建物の歴史はまだ300年程度ですよ。建築学科に進んだら、多くの学生がビルやモニュメントなど大きな建物に関わりたいと思うものだと思うのですが、作業はかなり細分化されているので全体を見ることはなかなか難しい。一方、住宅ですとすべてを見られますから、得られることは多いと思います。
私が研究室を選ぼうとしていた頃、Windows95が出て(学生のみなさんからしたら化石のようなものかもしれませんが汗)、これからは情報処理の時代だ、みたいな流れがありました。ITの世界へ突入する時代の転換期でしたね。でもね、実態のあるものを手掛けたかったんです。それで「住まい」を選んだわけです。具体的に何をやってるのか。
1、実験
2、実測
3、シミュレーション
研究の手法は、シンプルに3つです。
実験は実験室で、ある条件の基で測る。健在や設備の性能を繰り返し同じ条件で測る。確実なデータを細かく取れるが、実際の住まいで起きていることは異なる。我々研究者は実際の住宅や建築の現場に行くべきです。実測でしか気づけないことはたくさんあります。
シミュレーションだけで研究する人もいますが、研究者は自分の目で見て感じないと!教科書通りのことが起きることも確認できるし時もあるし、なぜなのかとても説明できない現象が起きている時もある。現実を目の当たりにしてどうすれば改善できるかを実感するいい機会なんです。例えば真夏の小学校の教室なんて本当に悲惨な暑さで、単純にかわいそう。このままにしてはいけない、と現場で感じることが重要で、学生たちを積極的に現場に連れていっています。現場に直接行って直接感じること、これは私の研究の芯にあります。
この三位一体で取り組まなければ研究は砂上の楼閣で終わってしまう。とはいえ実測では、ある瞬間の、とある場所の、そのときの気象条件など限定的な現象しかわからない。それが補うのがシミュレーションです。
シミュレーションは建物の年間通じて起こる事象を確認できる。時間、空間を拡張でき、何より今建っていない空間の予測も予測できる。シミュレーション技術は私が学生だった頃と比べて段違いに向上していて学生たちにも非常に使いやすい仕様になっている。
ただし使いやすすぎるから落とし穴もあって、自分のペースでシミュレーションだけやればいいやってなりがちになるんですね。
「砂上の楼閣シミュレーションのデータを実験、実測と比較する。技術が進歩したといってもものすごい地道な作業なんです。
我々研究者、科学者は信頼できる結果を得るために、コツコツ地道に先に挙げた実験、実測、シミュレーションをセットでやらないといけない。私たちは一軒一軒、そこに暮らす人たちの快適さを追求しながら地球環境問題や社会課題の解決に挑戦しています。
胸を張って、世の中の役に立つために一緒に研究できたらうれしい。研究室選びは人生選びのようなもの。繰り返しになりますが、私は人と地球の両方に貢献できる住宅の研究に取り組んでこられた四半世紀、本当に幸せだったと感じています。
Profile
前 真之 / Masayuki Mae
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 准教授
東京大学工学部建築学科卒(学位、修士、博士)