前研では、日本や世界各地の気候に根差したサステイナブルデザイン実現のため、国内外の様々なシミュレーションツールを利用しています。特に、年間を通して暖冷房の熱負荷や室温・エネルギー消費量を計算する「熱回路網計算」と、ある一瞬の空気や熱・気流の分布を詳細に計算する「数値流体計算CFD」の2つを、シミュレーションの大きな柱としています。併せて光環境など、個別の研究に必要なシミュレーションにも取り組んでいます。
ソフト開発メーカーと密接な関係を構築し、また建築環境設計支援協会SABEDでの活動を通した、教育プログラムの開発にも取り組んでいます。
ホームズ君 すまいのエコナビ(インテグラル)
前研で監修している、戸建住宅向けの設計ツールです。エコハウスの設計に不可欠である周辺障害物を考慮した日当たり分析と室温・熱負荷計算が可能な、実務者が利用できる事実上初めてのツールとして注目されています。
Insight/FormIT/Revit(AutoDesk社)初期段階設計
AutoDesk社との連携により、特に設計初期段階(アーリーステージ)での形態やファサード設計手法を開発しています。
Flow Designer (アドバンスドナレッジ研究所AKL)数値流体計算
非常に使いやすく高速計算が可能な構造メッシュタイプの数値熱流体計算ツール(CFD)であり、共同開発を継続的に行っています。SABEDのCFDコースで基礎を学んだ上で、暖冷房時の温度分布や快適性評価など多方面で活用しています。
FlowDesignerで作った映像をいくつかお見せしましょう。まず通風の利用を考えて見ます。空気の流れを解きます。
周辺に障害物がない場合、風上・風下の両方の開口を開けることで風がよく流れます。
風下側の開口を占めると、室内に風がほとんど流れなくなります。通風利用では両面開口が重要なことが分かります。
周辺に障害物があると、両面開口があっても通風は大きく阻害されます。野原の一軒家はめったにないのですから、通風利用は簡単ではありません。
ハイサイド窓など、屋根面の空気の流れを上手に使うなどの工夫が有効です。
次は暖房をエアコンと床暖房で行った場合です。温度が大事になるので、気流・熱の両方を考慮することになります。
エアコンは冷房のために高い位置にあり、ファンの力で下に吹出しますが、暖かい空気は軽いのでどうしても上にいってしまいます。
吹抜があると、ますます床が温まらなくなります。行き抜けがほしい場合は、外皮の断熱・気密性能をしっかり確保することが肝心です。
気密性がよければいつかは温風は床に届きますが、気密が悪いと暖気が天井から抜けて冷気が下から侵入するため、いつまでも床まで温まらないことが分かります。
床暖房はムラなく室内を温められます。ただしエネルギー効率が低い傾向があるので注意が必要です。
ExTLA (前研究室学生開発) 室温・熱負荷の非定常解析
OBの菱田君を中心に開発された、Excelの循環参照を利用した非定常室温・熱負荷計算です。研究室におけるPCMや太陽熱暖房のプロトタイプ・シミュレーションに活用しています。
EnergyPlus 室温・熱負荷・エネルギー
アメリカDOEにより開発された、世界で最も利用されているシミュレーションプログラムです。その詳細を検討し、SABEDの熱負荷コースなどで一般設計者にも利用できるカリキュラムを開発しています。
Rhinoceros + Grasshopper+Ladybug+DIVA
現在注目されている、形態の自動生成に優れた設計プラットフォームです。多くのプラグインがあり、環境設計にも活用しています。研究室の高雲さんがFlowDesignerとの連携プラグインを開発しています。
Climate Consultant (UC Berkeley) 気候分析
無償で使える気候分析ツールです。アメリカ エネルギー省の気象データEPWファイルを読みこんで用います。
Meteonorm
世界の気象データをカバーしています。EPWファイルでない地点のデータもある場合があります。
SCRYU/Tetra(クレイドル)非構造メッシュCFD
非構造メッシュタイプのCFDソフトです。複雑な局面などをもつ建物に適しています。
TRNSYS 室温・熱負荷・エネルギー計算
太陽熱利用や設備のエネルギー消費計算に優れたシミュレーションプログラムです。
Radiance 光環境
光環境のシミュレーションのスタンダードとして世界中で用いられています。
SABEDでは各分野のシミュレーションに精通した先生方が、より幅広く、信頼性が高いシミュレーションを行えるためのカリキュラムを開発しています。